花。草原。月。星の海原。天の川。 世界は美しいものだらけだ。 わたしたちはそれを知っている。 虫の声を美しいと感じるのは日本人だけなのだそうだ。 価値観も文化も違うこの広い青い星にも必ず終わりはあるのだ。

「僕は、人が滅ぶことがこの美しい青い星のための最善だと思う。 だけどね人が滅びてしまったらこの星を美しいと思う人、この星が美しいと知っている人がいなくなってしまう。 それは本当に美しいのだろうか。 美しいと思う人がいるからこそ、この星は美しい」

はかせのいうことはいつも正しい。とわたしは思う。

「僕らの命は有限だ。 それは火を見るよりあきらかだ。 では宇宙は? 宇宙の死についてはまだはっきりとわかっていない」

はかせの口からは、白く繊細な、レースのような美しい定義が生まれる。 理由を与えてくれるこの言葉たちははかせに使われて初めて意味を成すのだと思う。 心地好く耳に残るそれに理由などなく、それはただそこにあるだけの真実なのだと思う。

「今のところ宇宙は平坦な時空で、このまま広がり続けて止まることはないと考えられている。 膨張する宇宙の辿る運命は、アインシュタイン方程式の解である宇宙モデルによって異なるがね。 平坦な宇宙の体積は無限大で、永遠に膨張を続ける。 宇宙が平坦であり永遠に膨張を続けるということは、最終的に宇宙は絶対零度に向かって永遠に冷却し続けることを意味している。 また、一様等方という宇宙原理を満たすような宇宙の形の1つに「閉じた宇宙」がある。 閉じた宇宙であればある時点で膨張が収縮に転じ、やがて大きさ0につぶれる」

はかせの話を聞いていると、わたしはそれをずっと前から知っていたような気分になる。 そういう作用があるのかもしれない。 この人は言葉をとても上手に扱うから。

「僕は前者だと思う。正確には、前者がいい、という僕の願いだけどね」

私もそうだとおもいます、というとそれは嬉しそうにはかせは笑った。

(この星は有限で、きっと神様の吐息が届くことはない。)
(たとえ届いたところでそれでもこの星は死んでしまうだろう。)
(だから僕らは正しく呼吸ができて、だからこの世界は美しい。)



(この世界なら愛せる気がした。)