「世界は今日で終わるらしいよ」

半分に裂けた桃色の空を魚が飛んでいた。 砂嵐のテレビ。 崩壊した建物。 無秩序の音で溢れた街。 時が止まったような、暖かいような寒いような、季節のない温い世界で、理由はないけど、おれは彼女のいうことが本当なんだと理解した。
「そうなんですか」
「驚かないの」
「驚きませんよ」
「なんで」
「なんででしょうね」

あなたは、おれに嘘を吐かないから。 ねぇ、なんであなたはここに来たんですか。 なんで、いつもみたいに、あの角を曲がった先で、あなたはiPodでお気に入りの曲を聴いていて、おれを見つけて柔らかく笑って手を振ったんですか。

「来ないかと思った」
「あなたこそ」

起きたらね、ひとりぼっちになってた。 彼女はぽつりと呟いた。おれもそんな感じです。と答えると泣きそうな顔で笑った。 なんていう魚なんだろうね、と白い指で彼女は空を指す。 彼女の白い指は、タクトの様だった。 いつものように片方ずつ共有したイヤホンからは綺麗な悲しい曲が流れていて、今の状況にぴったりだと思った。

「おれと一緒にいきませんか」

行きませんか。逝きませんか。生きませんか。 それは一体どれだったのか。嗚咽を噛み殺して。その背中はとても小さくて。 肩が揺れていて。地面に涙の跡が出来る。歪な水玉模様が刻まれていく。 ああ、なんて静かに泣くんだろう。なんて綺麗に泣くんだろう。 おれはその手を握る。 それはきっと世界の終わりの景色だった。