「糞餓鬼、お前は悪魔だ」

盲目の老人は吐き捨てるようにそう言う。
白い髪の子供は楽しそうに笑った。

「ねえ、知ってた、悪魔って盲目なんだよ」

さら、と老人の長い白い髪をその白い細い指で梳く。
老人は心底嫌そうに顔を歪めた。
子どもは心底嬉しそうにそれを眺める。
見えていないのに、老人の視線は真っすぐ子どもの視線を捉える。
子どももその瞳を見つめ返す。
その瞳は決して揺れない。

「わたしを殺しに来た13人目、悪魔は美しいと聞くが本当か?」
「さあ、どうかな」
「透き通る様なその声だけを聞けばまるで天使の様だな。」
「天使だと言ったらどうする?」
「わたしに嘘は吐けない」
「なぜ」
「わたしは嘘吐きの神だからな 」

盲目の神は白い指先で賽に触れる。
子どもはその指を目で追う。
盲目の神は三日月の様に笑った。
白い子どもは眩しそうに目を細めた。

「蛇に知恵を与えたのは?」
「消えた肋骨の行方は?」
「最初の罪は、なに?」

子どもは白い掌で神様の目を塞ぐ。
毛糸の玉が解けるようにするすると世界は解けていく。
死神は、天使のような笑顔と白さで微笑む。