始まりは雨の日。

ざあざあざあと天から落ちる雫が全身を濡らすそんな日でした。 重力に従って地に吸いこまれるように降る雨が嫌いではありませんでした。 それはとても潔く、綺麗に思われました。身体が温度を忘れるような頃に見つけた明りは天国にも地獄にも見えました。 (実際、そこは天国であり地獄であったのですが。) 共犯者に出会ったのは其処でした。 其処は其処ではなく底と呼ぶ方が相応しかったかもしれません。 13と14の間の永遠を教えてくれたのは優しい目をした男でした。 あの時あなたに出会わなければと愚かな子どもになるつもりはありません。 きっとあなたに出会わなかったら別の誰かが同じ役目を果たすまでのことなのだから。 地獄を教えてくれてありがとう。 だから、どうか早く逃げて下さい。

(この爪が届く前に。)

6というのは特別な数字です。 始まりであり終わりであり神様であり悪夢であるのだから。 神様がわたしの名前を知らないようにわたしもあなたの名前は知りません。 名前のない偽善がわたしを殺そうとしていました。 ぬるぬると地を這う感触。 ドッペルゲンガーの亡霊は深海で潰れずに手を招いていました。 その眼球の恐ろしいこと! 脳味噌は忘却を許さず痛覚の輪郭をなぞりその気配に耳を澄ますのです。 その喉元を過ぎれば噛みつくのみです。 大蛇の屍を財布にいれるようなことはしません。 あんな大きなもの、要りません。 紙きれは紙吹雪に。 罪には罰を。 断頭台には髑髏を。 神には首輪を。 そもそも感覚や偶像や妄想と言う曖昧なものを崇拝することにさしたる意味を感じません。 (神が作りたもう美しき世界!) 虚言で狂言で空虚で無機質で不透明なことこの上ない。 英雄ではない狂戦士。 天才のメタファー。 クォーターの神様。 高貴な狂気。 その狭間を見せた盲目のように、わたしは笑えたでしょうか。 沢山の眼、眼、眼。 ああ、どうか臓腑の海に溺れぬように。

(世界はきっと白く始まって白く終わって飛散する。この白色は、異端の色、劣性の証明。)

終わりは秋の日。

「あなたにはきっとハイビスカスがよく似合う。」 そう言ったのは黒髪の男でした。 この繋ぎ目が脳まで焼かれた狂人の狂人たる理由と証でした。 左耳は聞こえるのか?と言うと楽しそうに天を仰ぐのでした。 狂人とはえてして美しいものです。 天の川のように、透明な嘘のように、鮮やかな青色をしています。

(絶望はきっと白い色をしている。)

三分の二だけの世界で呼吸をすることはそれほど難しいことではありません。 無知とは哲学のようなものです。 子守唄と讃美歌に大した違いはありません。 脳味噌を喰らえば生きながらえると嘘を教えるのは大人の役目でした。 英雄は愚者に、賢者は獣に、天才は無菌室で生産されると、綺麗なだけの嘘を並べるのは美しい作業でした。

世界が傾く途中で見た景色。
崩壊するワンダーランド。
(ここでデジャヴ。)

ああ。この両腕は終幕を打つために神があたえたもう美しき腕であったのだ!

(名前が言える間に、どうかどうか、)

わたしは枯れる前に散る花になりたいのです!