私と彼が始めて出会ったのは私達がまだ小学生のときだった。 はじめて彼の名前をきいたとき、わたしはとても綺麗な名前だと思った。 彼は名前のように純粋で無邪気な少年だった。 彼はよく寝坊をした。 それが原因で毎日学校に遅刻をしてきては先生に怒られていた。 私達のクラスではそれがあたりまえだったので、誰も理由を問うことはしなかった。 私達はまだ純粋だったのだ。

中学生になって少ししてから彼は「遅刻する理由をいろんな人に尋ねられるのが嫌になった」といって学校にこなくなった。 中学生になって少し疎遠になっていた私はあまり気にとめなかった。 只少し悲しかった。 そのうち噂で夜の学校に通っていると聞いた。 しばらくすると彼のことはあまり気にとめなくなっていった。 卒業アルバムをみて、ああそういえば、というような存在になっていた。 綺麗だった顔に痣や傷が目立つなあと写真を見てぼんやりと思っていた。

そんなことも忘れるくらい忙しくなった高校生の部活動の帰り、たまたま小学校時代の友人を見つけて駆けていた途中に 自転車の少年とすれ違った。 青いシャツがやけに印象的な妙齢の少年だった。 その後追いついた友人に話しかけると「いまのシオンだったね。」と言われて、私は愕然とした。 気付けなかったことが少し悲しく、そしてあの頃とあまり変わっていない彼に驚いた。 「あの家サラ金とかで大変らしいね。」 「家とかにも取り立てとかきてて大変らしいよ。」、と友人は聞いてもいないことをペラペラと話してくれた。 異国の言葉をきいている気分だった。 「サラ金」「取立て」、私には縁のない言葉だった。 私達には縁のない言葉だったはずだ。

彼が毎日遅刻していた原因とか痣や傷の理由を推測したところで全ては無駄なことだろう。
私は一生真実を知ることはないだろうし、知りたいとも思わない。

あのころ私達は確かに全てがきらきら輝いている大きな世界の真ん中にいた。
一緒に笑っていた彼は私の知らない世界を生きていて、私はただ微温湯のような日常に甘えている。