こんな世界があったなんて!と彼は珍しく喜んでいました。
雨上がりのあの特有の生ぬるい空気に頭痛がして僕は早く帰ろうといいました。
彼は僕の言葉を無視して続けました。
どうして雨上がりの空はあんなに綺麗なんだろう、と。
知るか、と呟いて僕は前を見ました。

赤信号。横断歩道。学生。車。歩道橋。夕日。空。雲。水たまり。

身近にあったはずのものが遠くにいってしまったような気がしました。
(それは只の錯覚にすぎないのに。)
しかしこの微温湯のような世界の中でそれらを見た時、僕は時間が止まったような妙な感覚を覚えました。
そんなときに僕は自分がとても小さな小さな世界に生きていることを再確認するのでした。
きっと神様のポケットは無限なんだ、とふと思いました。
隣で彼は満足そうに笑っていました。

桃色と群青が混ざりあって生温い風が吹いていて季節もないそこはまるで天国のようでした。